登山の知識&ヒヤリハット
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ヒヤリハットで疑似体験

踏み外しによる滑落

2017年2月23日印刷
発生日 2014年05月06日
体験者名 2016年Y664
登山地域 北アルプス・西穂高独標から西穂山荘に向けて下山中
登山概要

■パーティ人数:6人以上
■山行スタイル:山岳会やサークル、クラブの山行
■宿泊:日帰り
■登山内容:山頂往復
■天気:晴れ

ヒヤリハットタイプ

■対応(解決種別):[救助要請(山小屋・他登山者)]
■場所:[下り/トラバース道]
■原因(人):[集中力を欠く/トイレに行きたくなっていたため、集中力を欠き]
■原因(コース/環境):[雪・氷/一歩の足の置き場で雪面が崩れた]
■怪我の程度:[無傷]
■怪我の部位:[―]
■滑落した瞬間の対応:[行わなかった]
■滑落距離:[10m]

ヒヤリハット本文

ゴールデンウィークの残雪の独標から下山を開始した直後(時間は12時頃)、幅が1m弱、小ピークをトラバースする右側が切れ落ちた場所(上から見た角度はルートから15mぐらいまでがおよそ40度ぐらい?その先は見えないほどの切れ落ち方、雪から岩が点々と頭を出しているような斜面)で、2番目を歩いていたメンバーが右足で斜面を踏み崩し、約10m滑落した。 先頭を歩いていた自分が3番目のメンバーの「アッ」という声で振り返ると右の斜面を後ろでんぐり返しをするように落ちていくメンバーを見た。自分は思わず「止まれ!」と叫んでいた。 落ち始めてから停止するまで、でんぐり返し2回ぐらい、おそらく3~4秒だと思うが、とても長くスローモーションのように見えた。 メンバーは急角度に切れ落ちる直前の、ちょうど体が伸びるほどの広くなった斜面に腹ばいになった状態で停止し、意識もあり、こちらを見上げていた。 見た感じでは安定した位置で停止していたが、更に落ちると急斜面で完全に見失うような位置だったので、まずは本人に落ち着くことと動かないことを指示、さらに怪我や痛みの有無を確認するやりとりをしながら、2名がザックからロープを出してストックで簡易支点を作って固定した。 引き上げの時に本人が持つストックが邪魔になる可能性を考慮して、最初にまずストックだけを引き上げた。少し考えれば最初のロープで本人の確保だが、こちらもパニック状態でストックのみ引き上げる行動を取った。 その後に異なる角度(正面1本、約2m右から1本)の2本のロープを本人へ出し、たまたま前夜に練習していたもやい結び(ボーラインヒッチ)で本人が自分の胴体へ結んだ。 正面からのロープで引き上げ、本人もロープをつかみ、斜面をゆっくり歩くように引き上げた。 自力で歩行も可能で、ザックから落ちたので怪我は全くなく、自力で下山した。 踏み外しの原因は、本人曰く「トイレに行きたくなっていたため、集中力を欠いている状態だった」ことで、幅が広くなったり狭くなったりする残雪期のトラバースルート上で、昼の雪が緩みぎみのコンディションという、たった一歩の足の置き場でルートが崩れる状態での落下だった。

要因分析
装備や外的要因の分析(3×3要因分析表)
装備
コース
5月5日に上高地を出発し、涸沢ヒュッテを目指す計画を第一計画、初日の天候が悪い見込みだったため、初日は上高地散策、2日目は新穂高からロープーウェーを使用して西穂独標まで日帰りで行く計画を準備していた。
山の状況
装備
コース
前日は本来の目的地である上高地から涸沢までの計画を、土砂降りのため横尾で断念し、 あらかじめ用意した2つ目の計画であったロープーウェーを使う西穂高独標への日帰りの計画へ変更していた。
山の状況
風も思ったほど強くなく、天候面での心配はほとんど感じなかった。
装備
当日の本人の装備は10本爪アイゼン、雪面も柔らかめでストックを使用していた。
コース
体力的にも難易度的にもそれほど無理をしている感覚はなかった。独標直下の岩稜帯を降りきって、ルートの斜度もなだらかになった直後に起きた。
山の状況
この日は前日に奥穂高周辺で遭難が相次ぎ、上空はヘリが頻繁に旋回している状況だった。
登山者自身の内的要因分析(技術、知識、体力、経験等)3×5登山者分析表
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
リスク低減行動の継続的実践
その他
コースは比較的難易度が低いことで、天候による遭難を強く警戒し、事前約10日間ほど現地の状況と天候のチェックをし、参加メンバーへ情報を共有していた。 1泊2日の初日に天候が悪いことを予測していた。
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
リスク低減行動の継続的実践
その他
初心者が6人中3人だったので前日の夜、宿でロープ結びの練習をメンバー全員で行っていた。
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
リスク低減行動の継続的実践
その他
落下したメンバーはその日の朝からの歩行中、はしゃぎ気味な様子もあった。 本人のキャリアでもようやく雪のある山道に慣れてき始めた頃で、仲の良いメンバーもいたために慎重さよりも気分が軽くなっていた状態だったと思う。
対策

・今回使った25m約8mmのロープは山に行く時は持ち歩く
・天気図、寒気の状況を日が近づくほどじっくりと見ていた。特に積雪期はいまだに10日は見る。
・メンバー(自分)の体調の確認は大事。トイレは我慢しない。させない。
・事前の天候チェック。
・ルートのリスクを可能な限り事前に把握し、できる範囲の装備を持参する。

学びの場

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20170014 2017年12月2日印刷
STEP2 省察
装備や外的要因の分析(3×3要因分析表)
装備
コース
山の状況
装備
コース
山の状況
装備
丸山へ下山するまでは、ピッケル・アイゼンが望ましい。アイゼンは10本爪でも大丈夫だが、初心者なので、つねにアイゼンがずれていないかなどをチェックしてあげる必要がある。
コース
山の状況
登山者自身の内的要因分析(技術、知識、体力、経験等)3×5登山者分析表
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
リスク低減行動の継続的実践
経験者3人に初心者3人であれば、初心者1人に対しマンツーマンで経験者が付くことができる。そしてそれぞれの経験者が初心者をケアすることが重要。
その他
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
ロープの結び方の練習は直前ではなく、事前に十分な練習を!
リスク低減行動の継続的実践
その他
楽観的・希望的な解釈
調査・観測結果に基づくリスク対策行動
安全最重視の行動
概して事故は難所を過ぎた後に起こるもの。なので本当に安全な所までは声がけして、集中力を持続させるよう促す必要がある。
リスク低減行動の継続的実践
その他
STEP3 概念化

■類似した自分の登山経験

■どのように対応すべきと考えたか

西穂独標は、残雪期でも気の抜けない所があり、それなりの技術を要します。
今回投稿者様のグループは、8mm×25mのロープを持っていかれたようですが、ハーネスとカラビナ数個・スリング数個も携行した方がよかったです。メンバーの内の半分が初心者であれば、全員がハーネスを最初から装着し、難所が近づいたらすぐにロープを結びあって、お互いの安全を確保した方がよかったです。

ロープを結びあって確保する方法は二通りあります。一つはコンティニュアス(同時行動)、もう一つはスタカット(隔時行動)です。コンティニュアスは簡単なようにみえますが、実はとても難しい技術です。十分な練習の上で実践しないと、滑落者に引きずられて皆が滑落してしまいます。公園や里山などの安全な場所にて、方法をマスターしておく必要があります。

滑落時の対処についてですが、投稿者様も書かれている通り、ストックは後回しにして、滑落者の安全確保を先にするべきでした。できることなら経験者が滑落者の所まで下りていき、ロープをセットしてあげると尚よいです。滑落者は動揺しており、ロープを間違って結んでしまうかもしれません。

また、登山前夜にボウラインノットを学習したそうですが、登山に使う基本的なロープの結び方は、平地で事前に何度も練習しておかなければなりません。
最低限必要な結び方は下記の通りです。
ボウラインノット
エイトノット
クローブヒッチ
オーバーハンドノット
これを会の例会などで繰り返し練習されることをお勧めします。

トイレについてですが、初心者はとにかく経験者に付いていくことで精いっぱいだと思います。なので引率者が適当な場所で休憩を適宜挟んであげることが重要です。

■今回の分析で獲得した知識や技術

■今回の分析で得た(気づいた)発想

STEP4 専門家との意見交換や登山での実践を行った結果

STEP2とSTEP3の内容の振り返り結果

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