発生日 | 2019年10月04日 |
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体験者名 | 2019S002 |
登山地域 | 双六岳〜三俣蓮華岳 |
初日、新穂高温泉より入山
小池新道から弓折乗越に上がり、双六小屋へ
小屋からは巻道を通り、三俣山荘に宿泊
二日目は三俣山荘から三俣蓮華岳〜丸山〜双六岳
双六小屋に下り、往路と同じ道で下山
■解決種別:自力下山
■登山計画時にそのリスクに対する検討を行ったか:あまりしなかった
■行動中にリスク回避や軽減が行えたか:あまりしなかった
10月4日、新穂高温泉駐車場に車を停め、朝5時頃出発。
予定では3時頃出発の予定だったが、登山道にいちばん近い駐車場が500円/6hと値段が高く、少しでも安くしようと2時間ケチって駐車場の外で仮眠。この2時間はロスでしかなかったと思っている。
仮眠する前の雨は出発時にはほぼ上がっており、歩き出しは涼しく快適だった。秩父沢、チボ岩を過ぎてシシウドが原辺りから雨が再び降り始め、鏡平山荘に着く頃には本格的になってきた。1時間くらい休ませてもらい、諦めに近い感じで歩き出した。弓折乗越に上がった途端、笠ヶ岳方面からの強風に煽られ出した。
この頃はまだ気持ち的には余裕があった。可愛い雷鳥を何羽も見られ「こんな強風の中でも頑張っているんだね〜」等と同行者と話しながら歩けたくらいだった。
しかし時折だった強風が断続的に、しかも全方向から吹き荒れてくると、カメラを出す余裕も無くなってきて、心理的に(大丈夫なのか?)と思い始めるようになってきた。
ようやく双六小屋に辿り着いたが、小屋で休もうと言った同行者に対し、「今ザックを下ろしたら、もう歩けない気がする。このまま行きたい」と提案。キャリアでは自分に劣る同行者は(仕方ない…)と言った感じで従ってくれた。
小屋の従業員さんは「巻道なら三俣山荘までは約2時間」と言っていたので、強風を考えたらそれしか選択肢はないだろうと分岐を目指しハイクアップ。
分岐付近では双六岳からの吹き下ろしが特に激しく、初めて後悔を感じた。が、この時点で13時半。2時間なら我慢できるだろうと歩き出した。
実は鏡平付近からレインパンツのファスナーを閉め忘れ、雨水が足に入り込んでいたのに気づいていた。既に脛辺りまで濡れていたのだが、イケるだろうと判断していた。
巻道は既に沢と化していた。まさかと思ったが靴の中まで浸水してきた。
普段登山靴は外側を洗う程度で、それほど手入れをしていなかった。この事がおそらく浸水の要因だったと思う。
滝のような岩の下りでは全身がずぶ濡れになり、手袋も無い状態で、手はかじかんできた。
岩の影で立ち休憩をしている時、ふと前方の登山道に目をやった瞬間、大きな黒いものが動いているのを見た。
「熊だ・・」
熊はおそらくこちらより先に人間に気づいていたのだろう。ゆっくりと登山道の先へ歩いて行った。しかし行く先に行かれては、我々はどうすることもできない。姿を消すまで約10分、休憩を続けるしかなかった。
暴風雨の中では熊鈴は何の役にも立たなかった。仕方なく大声で「おーい!おーい!」と叫びながら歩いた。
下半身の冷えは更に酷くなり、尾根をいくつも越えても三俣峠は出てこない。岩は小屋の屋根に見えるし、木は道標に見えるしで、これが幻覚かと我が身を呪った。峠の道標を発見した時は思わず嬉しさから叫んでしまったくらいだった。
峠からの下りは沢水と共に流れて行くような感じだった。今でも同行者の不安そうな顔は忘れられない。
小屋に入った途端気持ちが緩んだのか、立っていられなくなり倒れ込んでしまった。
時刻は16時過ぎ。ちょうど夕食の支度であっただろう小屋のスタッフさんたちに乾燥室に運び込まれ、懸命な手当を受けた。体温計で測ったら、平熱から0.5度くらい低い35.9度と言われた。たったそれだけで、身体はこんなにも言うことを聞かなくなるのか!これが低体温症というものなのか!
その後2時間ほどの手当と休息で、夕食をおかわりできるくらいまで回復した。
同行者はつきっきりで横にいてくれた。
翌日快晴。すっかり回復した私は、改めて小屋のスタッフさんたちにお礼を言い、三俣蓮華岳、双六岳を登頂し、帰途についた。
計画時 | 出発直前 | 行動中 | |
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装備 | レインウェアで蒸され、汗をかく事を嫌がって、せめて足さばきはとパンツはミレーのティフォン50000。上はゴアテックスプロのジャケットを準備。 | レインパンツが浸水するなど、想像もできなかった事が起きた。上半身は全く問題なし。さすがゴアプロ。 | |
コース | 初めてのコースではあったが、山小屋にも登山者が何人か居て、迷うこともないだろうと思った。 | ||
山の状況 | 出発時は雨が上がっていた。時折薄日が差していた。稜線には雲が大量にかかっていた。 | 風速ははっきりわからないが、常時十数メートルの強風。時折身体が持っていかれるほどの突風が吹き荒れた。雨は横殴り。巻道はカールの中で薄暗く、心理的に恐怖を感じた。 |
計画時 | 出発直前 | 行動中 | |
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楽観的・希望的な解釈 | 台風が接近していることは知っていた。コース予想から、やがて温帯低気圧になるだろうことも分かっていた。高山での大雨を経験した事が無かった。昨年に比べ仕事が忙しく、登山の回数は5割ほど少なかった。 | 雨が上がっているうちに歩き出してしまいたいと思っていた。少し寝坊して、出発が遅れた。 | 低気圧の勢力は弱まるだろうと思っていた。裏付けは無い。また、低山の巻道を連想していたので、歩きやすいだろうと勝手に解釈していた。 |
調査・観測結果に基づくリスク対策行動 | 立ち休憩の際、チョコバーを同行者と分け合った。ポケットに入れておいて正解だった。多少の甘みが少しだけ気分を和らげてくれたと思う。 | ||
安全最重視の行動 | やってはいけない「身体を冷やす」をやってしまった。 双六小屋に宿泊を変更すべきだったと思う。熊鈴は暴風雨の中では聞こえないであろう。 | ||
リスク低減行動の継続的実践 | 上半身は濡らさなかった事が良かったと思う。熊に対してはとにかく大声で威嚇しながら歩く。 | ||
その他 |
天気の読みがあまりにも甘かった。事前にある程度はわかる事なのだから、天気図とまでは言わないまでも、情報を整理して、行動計画に反映させないといけないと思う。また、北アルプスの秋の大雨を知らなかった事からウェアの選択を誤った。荷物を重たくしたくないなどと考え、軽量なパンツを選んだが、考えてみれば着てしまえば重さなど関係ない。自宅に近い低山とは考えを変えなくてはならない。今回は自分ひとりが具合が悪くなり、同行者は幸運にも無事だったが、二人とも具合が悪くなっていたら、山荘手前でも命を落としていたかもしれない。同行者は万全の体制で臨んでいた。余計なことキャリアが楽観的な考えを産んでいたように思う。
上記のことから
1.ロングを歩く時は1〜2ヶ月前から中長距離を歩いて、身体を慣らしておく
2.秋山にはウェアだけでも冬装備を前提に考える
3.同行者がいる時は、レベルを低い方に合わせた行動とする。自分はいけても無理かもしれない
4.他人の意見は参考程度に。事前の下調べは飽きるほど行っておく